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「声が出た」と「楽に声が出た」は、まったく違う。

11 分前
読了時間: 8分

高音が出せることと、無理なく歌えること。その違いを考えたことはありますか?


「先生! 今まで出なかった高い音が出るようになりました!」

ボイストレーナーとして活動していると、こうした嬉しい報告をいただくことがあります。


出せなかった音が出せるようになる。


これは歌う人にとって、大きな喜びですよね。

でも、私はそこで、もう一つ確認したいことがあります。

「その声、本当に楽に出ていますか?」


というのも、音程に到達できたことと、その音を無理なく出せていることは、必ずしも同じではないからです。

そして、もう一つ大切なことがあります。

それは、聴いている人にとって自然に聞こえる声が、必ずしも歌っている本人にとって楽な声とは限らないということ。

つまり、声の状態を判断するには、音程や音色だけでは分からないことがあるのです。

今日は、私が発声指導で大切にしている「声の出方」について、お話ししたいと思います。

高音は出ている。でも、何かが苦しい。

例えば、こんな経験はありませんか?

  • 高音は出せるけれど、喉に力が入る

  • 音域が上がるにつれて、声を強く押し出してしまう

  • 意図していないのに、高音で急に声色が変わってしまう

  • 一度は出せても、繰り返すと疲れてしまう

  • 発声練習では出せるのに、曲になるとうまく歌えない

これらは、私が実際のレッスンでもよく目にする現象です。

もちろん、こうした状態にはさまざまな要因が考えられます。

ただ、一つ言えるのは、

「目標の音程に到達した」という事実だけでは、その発声がどのような状態で行われているのかまでは判断できない。

ということです。

音程が合っているか。

声量が出ているか。

目的の音色になっているか。

それらは、もちろん大切な要素です。

でも、それだけでは見えてこないものがあります。

私が注目するのは、声が出るまでに何が起きているか

私のレッスンでは、生徒さんの声を聴くと同時に、身体の状態を注意深く観察しています。

例えば、高音に向かうとき。

首や頭の角度はどう変化しているか。

顎の位置はどうなっているか。

胸まわりの動きはどう変わるか。

身体全体のバランスや、前後への移動はどうなっているか。

こうした部分を観察しています。

ただし、ここで誤解してほしくないのは、身体が動くこと自体を悪いと考えているわけではないということです。

歌唱中には自然な身体の動きが生じますし、表現のために意図的に動くこともあります。

首が前に出たから間違い。

顎が上がったから間違い。

そんな単純な判断ではありません。

私が知りたいのは、その身体の状態や動きが、声の出方とどのように関係しているのかということです。

だからこそ、身体の形だけを見て正解や不正解を決めるのではなく、実際の声の変化や、本人が感じている発声時の感覚と照らし合わせていきます。

ある生徒さんの発声で起きた変化

以前、20代の女性の生徒さんを指導したときのことです。

その方は、C5付近で声が裏返ってしまうという問題を抱えていました。

発声を聴いたとき、私には口の中の空間が狭くなっているかのような音色に感じられました。

ただし、これはあくまで音から受けた私の印象です。実際の口腔内の形状を測定したわけではありません。

そこで私は、首や頭の角度に注目しました。

特に、頭部の向きが変わることで、上顎を含む頭部全体の位置関係がどう変化するのかを観察しました。

そして、角度を調整した状態でもう一度発声してもらいました。

すると、その再試行では、それまで裏返っていた音域を裏返らずに発声できたのです。

さらに、私の耳には、それまでの押し出すような声から、地声らしい質感を保ちながらも、より自然な音色へと変化したように聞こえました。

ここで重要なのは、身体の位置関係を調整した後の再試行で、発声の変化が観察されたということです。

その変化が、具体的にどのような仕組みで起きたのか。

本当に身体の角度の調整が主な要因だったのか。

あるいは、注意の向け方や発声の仕方など、ほかの要素も影響していたのか。

一度の発声だけですべてを判断することはできません。

また、その変化が別の日や実際の歌唱でも再現できるかどうかは、さらに確認する必要があります。

そして、この事例では、本人がどの程度「楽になった」と感じたかについて、確かな記録が残っていません。

だから、私の耳に自然に聞こえたことと、本人にとって楽だったことを同じ意味として扱うことはできません。

それでも、この経験は私にとって、声と身体の関係を考えるうえで重要な手がかりになりました。

声を変える前に、何を変えるべきか。

発声に問題を感じたとき、私たちはつい「どうやって声を出すか」という方法を探してしまいます。

例えば、高音が苦手な人に対して、

「もっと息を支えて」

「喉の力を抜いて」

「響きを上に持っていって」

といった指導が行われることがあります。

もちろん、こうしたアプローチが有効な場面もあるでしょう。

でも、そもそも何がその人の発声を難しくしているのか。

それを十分に把握できていなければ、どのような介入を選ぶべきか判断することは難しくなります。

私が大切にしているのは、

観察すること。判断すること。介入すること。そして、その結果を検証すること。

この順序です。

声が変わった。

では、何が変わったのか。

音色なのか。

音程の安定性なのか。

身体の動きなのか。

本人の感覚なのか。

そして、その変化は再現できるのか。

こうした問いを、一つずつ確認していきます。

NAVが目指しているもの

私は現在、こうした指導経験をもとに、NAV(Nuro Axial Vocalism)という発声教育体系を構築しています。

NAVでは、声を喉だけの問題として捉えるのではなく、身体全体の状態と関連づけながら観察していきます。

ただし、特定の姿勢がすべての声の問題を解決するという考え方ではありません。

大切なのは、声と身体の状態をどのように捉え、何を根拠に判断するかということです。

そのためにNAVでは、大きく3つの情報に注目しています。

1.声の聴こえ方

音程、音色、声のつながり、発声中に起きる変化など。

2.身体の状態

首や頭の角度、胸郭や骨盤の動き、身体全体のバランスなど。

3.発声している本人の感覚

喉の感覚、息の通り、発声時の負担感など。

これらを別々の情報として捉え、照らし合わせながら判断していきます。

また、NAVでは「Neutral Voice(ニュートラルボイス)」という独自の発声基準を設けています。

これは、発声の状態を観察・比較するための基準となる声です。

Neutral Voiceについては、また別の記事で詳しくお話ししたいと思います。

私が目指しているのは、単に発声テクニックを増やすことではありません。

声の問題を自分で観察し、判断するための視点を身につけること。

それがNAVという教育体系の中心にある考え方です。

「出せる声」から「自由に扱える声」へ

私が目指しているのは、単に高い音を出せるようになることではありません。

もちろん、音域が広がることは大きな喜びです。

でも、本当に大切なのは、その音域を自分の表現として自由に使えることではないでしょうか。

高音を出すたびに身構えなくてもいい。

必要以上に息を押し出さなくてもいい。

音程が変わっても、意図した声のつながりを保てる。

そして、必要なときには声色を変え、表現の幅を広げることもできる。

そんな状態を目指したいのです。

そのためには、「声が出たかどうか」だけでなく、「どのような状態で声が出ているのか」を見極める必要があります。

これは、歌う人自身にとっても、指導する側にとっても大切な視点だと思います。

あなたは、自分の声をどう判断していますか?

高い音が出たとき。

大きな声が出たとき。

思いどおりの音色が出たとき。

ぜひ一度、こんな問いを自分に投げかけてみてください。

「私は今、どのようにしてこの声を出しているのだろう?」

そのとき、喉にはどんな感覚があるでしょうか。

身体はどのように動いているでしょうか。

自分の耳には、どんな声に聞こえているでしょうか。

正解をすぐに見つける必要はありません。

そして、これらを自分一人で正確に判断するのは、決して簡単なことではありません。

だからこそ、観察するための基準を持つことが大切なのだと思います。

声の問題を、ただ感覚的に捉えるのではなく、観察できるものとして考えていく。

その視点が、これまでとは違う発声へのアプローチにつながるかもしれません。


NAVについて

私は現在、声と身体の関係を観察し、発声の問題を判断する力を育てるための教育プログラム「NAV」を開発しています。

NAVでは、特定の発声方法を一方的に教えるのではなく、自分の声を理解し、必要な調整を考えられるようになることを目指しています。

このSubstackでは、実際のレッスンでの発見や、声と身体の関係についての考察、NAVの開発過程などを綴っていきます。

歌うことが好きな方はもちろん、発声指導に携わる方にも、新しい視点を届けられたら嬉しいです。

これからも「声の見方」を一緒に考えてみたい方は、ぜひ無料購読していただけると嬉しいです。

NAVの詳しい情報はこちらから。

Maco

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